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なぜ「やるべきこと」が増え続けるのか

結論:やるべきことが減らないのは、個人の認知的な制約だけでなく、組織やツール、評価の仕組みといった外部の構造が重なって「増える設計」になっているからのように見えます。一朝一夕の対処で収まらない場面が多いため、まず増え方を分解して観察することを優先します。

  • 個人側のメカニズム(注意・切替・先延ばし)と、組織・環境側の構造(役割の曖昧さ・手戻り・チャネル増)がどう重なっているかを整理します。
  • デジタル通知やタスク管理ツールが「入口」を増やす仕組みと、その設計的対策(導入→効果検証の事例が不足している点も含めて)を扱います。
  • どの程度タスクが増えているかを測るための定量指標(業界・職種別の差を含む)と、簡単に試せる測定方法を提示します。
  • 「断る/境界を作る」ことの実務的な意味と、キャリア評価とのトレードオフ、さらに個人差に応じた対応の分岐を考えます。
  • 最後に、増加が学習や機会に変わる条件を暫定的に整理し、単なる負荷としてではない見立ても示します。

「やるべきこと」が増え続ける、という問いをそのまま置く

増える感覚の俯瞰
増える感覚の俯瞰
  • 完了なのに増えるという違和感の可視化
  • 個人×組織×環境の重なり図
  • 測るべき指標(手戻り率・割り込み回数)
  • 観察を始めるための短期案

完了したはずの仕事がいつのまにか増えている感覚は、個人の努力不足では説明しきれない傾向を指している。その感覚をまず「観察対象」として置くことで、何が実際に増やしているのかを分解しやすくなる。

終わらせたはずなのに、なぜか増える

表面的には「追加の依頼」や「差し戻し」が原因に見えるが、根底には手戻りを生むプロセスがある。依頼の粒度が粗い、合意された完成定義が不明瞭、あるいは受け渡し時の情報が不足していると、完了判定が後から覆される余地が増える。測るべき指標は少なくとも手戻り率・割り込み回数・未完了滞留日数の三つで、週次でこれらを追うと「どの入口が仕事を増やしているか」が可視化されやすくなる。こうした観察は、単純な生産性向上策だけでは埋めにくい構造的負荷の存在を示す。出典:Task Interruptions in Requirements Engineering(arXiv)

「忙しい」の正体が、時間ではなく注意にあることも

時間の総量が足りないのではなく、連続した集中(深い作業時間)が断片化されている場合が多い。認知科学ではタスク切替に伴うコストが生産性を低下させるとされ、短い割り込みの積み重ねが「やるべきことが増えた」感覚を強める傾向が示されている。まず取れる一手は通知の頻度を可視化し、意図的に深い作業ブロックを確保することで、切替コストの実被害を減らすことだ。加えて、近年のリモート/ハイブリッド化は会議やメッセージチャネルの増加を伴い、実務上の断片化を助長しているという報告もある。出典:The working memory costs of a central attentional bottleneck(Psychological Research)Microsoft Work Trend Index(Microsoft)

これらの観察は、単に「やめる」や「優先する」だけでは届かない領域があることを示しており、次に見るべきは組織やツールがどのように仕事の入口と手戻りを設計しているかという視点である。

この問いが生まれやすい背景(仕事の地形が変わった)

質問が生じる根底には、個人の工夫だけでは届かない「仕事の地形の変化」があると見えます。

変化が速いほど、手戻り(差戻し)が“仕様”になる

前提や条件が短期間で変わる状況では、完成の判定そのものが流動化しやすい。関係者が増え、要件確認が断片的だと、小さな変更が次々と波及して再作業が常態化する。こうした手戻りは個々の作業者の能力では抑えにくく、変更の受け入れ/評価プロセス自体の設計に起因することが多い。
注意点:手戻りの原因分析は「誰が何を決めたか」「どのタイミングで合意が取れたか」「変更がどの工程に波及したか」をセットで測ると誤読を減らせる。

出典:Atlassian — Change control process

デジタルの通知・チャネル増が、仕事を“断片化”させる

会議やチャット、メール、タスクツールといった入口が増えると、作業は短い中断で分断される。短時間の割り込みが積み重なると、まとまった深い作業時間が確保できず、結果としてやるべきことが視覚的にも心理的にも増えるように感じられる傾向がある。近年のデータではミーティング時間やチャット量が増加し、利用者のフォーカスタイムが減ったという傾向が示される。
行動の一手:まず72時間、自分の通知・割り込みをログ化して「どのチャネルが断片化を起こしているか」を把握すると、過負荷の主要因が見えやすい。

出典:Microsoft Work Trend Index(Microsoft)

評価の基準が「成果」から「反応速度」に寄る場面

応答の早さが見える指標として扱われる場面では、短期の応答タスクが優先されやすい。特に営業や顧客対応の分野では「早く返す」ことが機会獲得や評価に直結するというデータがあり、組織文化が速やかなレスポンスを奨励すると短期タスクの流入が増える傾向がある。
数値で見ると、リード対応の早さが成果に大きく結びつくという報告があり、これは内部業務でも「先に返すことが信頼を生む」文化を作りやすいことを示唆する。

出典:Forbes — Why Email Response Time Matters

こうした背景を並べると、個人の注意や習慣だけでなく、変更管理・チャネル設計・評価指標という三つの構造が相互に絡んで「やるべきこと」を増やしている様子が見えてくる。

よくある説明をいったん並べる(個人の工夫に寄りがちな話)

よくある説明のマップ
よくある説明のマップ
  • 優先順位付けの限界
  • マルチタスク/切替コストの影響
  • 断ることと評価のトレードオフ
  • 仕組み化導入時の負荷増

多くの議論はまず個人の手法に立ち返るが、それらがどの程度「現象」を説明しているかは分けて考えたい。

「優先順位をつければいい」:判断コストの見落とし

優先順位付けは有効な道具であり、Eisenhowerの緊急⇔重要マトリクスのようにタスクを分類することで焦点が明確になる。だが実務では「優先順位を決めるための情報」が不十分なことが多く、判断自体が仕事化してしまう。プロジェクト間で利害が衝突すると、優先順位の決定にステークホルダー間の合意形成が必要になり、そのプロセスが新たなToDoを生む。ハイライト:優先判断の軸は「影響度(成果への寄与)」と「実行可能性(期限・リソース)」の二つを最低限そろえるかどうかで、これが欠けると優先付けは無効化しやすい。
出典:Miro — What is the Eisenhower Matrix?

「マルチタスクをやめよう」:脳の制約の話

マルチタスク批判は科学的な根拠に支えられており、短い割り込みの積み重ねが回復時間やエラー率を高める傾向が確認されている。実務では通知や小さな依頼により「注意の断片化」が起き、結果としてタスクは減らないどころか増えたように見えることが多い。ハイライト:平均的な割り込み後の完全復帰時間は約23分と報告され、この復帰コストが日中の断片化による総損失を押し上げる。
出典:Gloria Mark et al., The cost of interrupted work(CHI 2008)

「断ればいい」:境界と評価のトレードオフ

「断る」ことは理屈としては有効だが、職場の評価・文化・役割期待との関係が複雑で、単純なセルフケアの提案では済まない場合がある。とくにキャリアの初期や、部署文化が「率先して引き受けること」を奨励する場面では、断り方ひとつが機会損失や評価のズレを生む。ハイライト:断る際の実務的な基準は「代替案・優先順位の提示・現実的な期限の提案」の三点で、これがない単純拒否は関係性に悪影響を与えやすいという指摘がある。
出典:Forbes — Being Too Helpful At Work Can Hurt Your Career

「仕組み化しよう」:仕組みを作るタスクも増える

プロセスの標準化や自動化は長期的には負荷を下げるが、導入時には設計・整備・教育のための追加作業が発生する。さらに、プロセスが断片化していた環境では「どこを自動化すべきか」を見極めるためのプロセスマイニングやパイロットが必要になり、成熟するまでには時間とコストがかかる。ハイライト:多くの組織調査は「プロセスの断片化・IT準備不足・抵抗」が導入障壁であると指摘しており、短期の生産性低下を見越した設計が重要だと示唆している。
出典:Deloitte Insights — Intelligent automation survey results

以上を並べると、個人レベルの工夫は確かに有益だが、判断材料・注意資源・組織文化・導入コストといった外部条件が揃わないと効果が限定されることが見えてくる。

それでも違和感が残る理由(増えるのは“あなたの中”だけではない)

個人の工夫が効かない場面があるのは、やるべきことが「内側」と「外側」から同時に生まれているためだと整理すると見えやすい。

タスクは「自分で生む分」と「外から流入する分」に分かれる

自分で分解して作るToDo(計画的な仕事)と、他者から降ってくる依頼や差戻し(外部流入)は性質が異なる。前者は優先や着手のコントロールが比較的効くが、後者は合意・調整・受け渡しのプロセス次第で量が増減する。ハイライト:どちらが主因かを判断する軸は「制御権の所在(あなたが決められるか)」で、制御できない流入が多ければ個人のスキル改善だけでは減りにくい。外部流入が多い現場では、受け渡し基準や品質チェック(標準作業)の整備が再作業を減らす起点になる。出典:MudaMasters — Finding Muda (waste) in your Process

未完了は「不安」を増やし、不安はタスクを増やす

未完了の事柄は記憶に残りやすく、思考を侵食して追加の確認や保険的作業を生みがちだという心理学的傾向が指摘されている。これにより「やるべきこと」が外形上増えるだけでなく、心理的負荷が増して新たなToDoが派生する好循環の逆パターンが生まれる。ハイライト:まずできる一手は、一日の終わりに「完了したこと」を明示的に書き留め、未完了は小さな着手可能タスクに分解して一つずつ閉じる習慣を試すこと。未完了が思考を占める仕組みは古典的にZeigarnik効果として知られる。出典:Psychology Today — Zeigarnik effect

有能さ・親切さが、仕事の偏りを生むことがある

手早く応える・助ける人に仕事が集中する現象は組織で観察されやすく、善意や有能さが結果的に過負荷を招くことがある。組織市民行動(OCB)は短期的には周囲を助けるが、高頻度で続くと当人の役割負荷や疲労を増やし、長期的なパフォーマンスや幸福感に負の影響を与える傾向がある。ハイライト:支援を引き受ける際に確認しておく三点―期待される頻度、想定所要時間、代替可能性―があれば、無自覚な負担の蓄積をある程度避けられる。出典:MDPI — A Social Support and Resource Drain Exploration of the Bright and Dark Sides of Teachers’ OCB

これらを並べて眺めると、増え続けるToDoは個人の内面だけで説明できない構造的な側面を持っているという観察が残る。

視点を分解して整理する:増え続けるToDoの「3つの発生源」

ToDo発生源の3層図
ToDo発生源の3層図
  • 個人層:注意と先延ばし
  • 組織層:役割曖昧と手戻り
  • 環境層:通知・チャネルの断片化
  • 制御権の所在で責任区分

増え続けるToDoを観察するとき、有効なのは原因を混ぜずに「どの層から来ているか」を分けて見ることです。

個人層:認知の混雑(注意・記憶・先延ばし・切替)

個人の頭の中に残る未完了は、タスクとして顕在化しやすい。ワーキングメモリや注意の切替にはコストがあり、割り込みの後に元の作業へ完全に戻るまで一定時間を要するため、短い割り込みの累積が実作業を減らし、ToDo感を増幅させる傾向がある。ハイライト:割り込み後の復帰に要する時間を可視化すると、断片化の影響度が把握しやすい(個々の環境で変動するが、復帰コストは無視しづらい水準)。
出典:Gloria Mark et al., The cost of interrupted work(CHI 2008)

組織層:役割の曖昧さと手戻りの設計

組織内の役割が曖昧だと「誰が最終責任を持つか」がはっきりせず、気づいた人が作業を拾うことでタスクが偏在する。加えて、合意や変更管理の仕組みが緩いと差戻しや再作業が常態化しやすい。ハイライト:手戻りを減らす視点は“受け渡し基準の明確化(何が完了かを定義すること)”で、これがないまま高速で回すと再作業の負債が蓄積する。
出典:Atlassian — Change control process

環境層:チャネル増とツールの設計が生む断片化

メール・チャット・タスクツール・会議といった入口が増えると、作業は断続的に分断される。ツール自体は効率化の意図で導入されるが、運用ルールが伴わなければ通知や小依頼が増え、結果として処理対象が雪だるま式に膨らむことがある。ハイライト:まず行うべきはチャネルごとの「目的」と「期待応答時間」を定めることで、入口ごとの役割を分けない限り断片化は続きやすい。
出典:Microsoft Work Trend Index(Microsoft)

個人・組織・環境の三層を切り分けて見ると、それぞれに異なる手当てが必要であることが見えてくる。

現時点での暫定的な整理:減らすより先に「増え方」を掴む

増え方の観察チェックリスト
増え方の観察チェックリスト
  • Start/Stop/Continueの簡易表
  • 依頼の発生源リスト化(誰・チャネル)
  • 境界の設計チェック(期限・範囲)
  • 組織手当ての候補(受け渡し基準)

増え続ける感覚を短絡的に「減らす」方向へ動く前に、まず現象の出所を分けて把握することが実務的な出発点になります。

まず分ける:Start/Stop/Continueと「増える入口」の棚卸し

作業を減らす前提として、何がどの入口から来ているかを明確にする。Start/Stop/Continueのフレームで「始めるべきこと」「やめられること」「続ける価値のあること」を分類し、依頼の発生源(誰から・どのチャネルで・どの頻度か)を一覧にするだけで、漠然とした負荷が具体的な項目に落ちる。ハイライト:入口を「自己発生」「上長依頼」「同僚依頼」「外部からの問い合わせ」に分けて見える化すると、どの経路が最も流入を生んでいるかが判別しやすくなる。
出典:note — Start/Stop/Continue の考え方(やわらかメガネ)

境界線:断るか、条件を変えるか、役割を再定義するか

個人としての対処は「単純に断る」以外にも、受け方の設計(期限や範囲の再定義、優先度の提示)という選択肢があり、これらは関係性や評価の文脈に左右される。ハイライト:拒否を選ぶときの実務的な基準は「代替案の提示」「現在の優先順位との比較」「現実的な期限の提示」の三点があると関係悪化を避けやすいという指摘がある。
出典:Harvard Business Review — Work Speak: How to Say “No” to Extra Work

組織の手当て:手戻りを前提にしたプロセス設計と負荷配分

個人の境界だけでは限界があり、組織的には受け渡し基準の明文化、変更管理のルール設定、依頼の粒度統一といったプロセス的手当てが必要になる。ハイライト:受け渡し基準(完了の定義)を明文化しないまま進めると、再作業が「仕様」として蓄積しやすく、結果的にToDoが増え続ける構造が固定される。
出典:Atlassian — Change control process

ここまで分解すると、個人の工夫/人間関係のさじ加減/組織的な設計という三者が絡んでいることが見えてくる。

Q&A:検索されやすい疑問(状況別の論点だけ整理)

実務でよく検索される疑問を、感情的な答えに流されずに短く分けて整理します。

やることリストを作るほど増えるのはなぜ?

リスト化は未完了項目の可視化を促し、細分化すれば項目数は自然に増える。加えて、未完了の事柄は心理的に注意を引き続け、追加の確認や保険的タスクを生む傾向がある(いわゆるZeigarnik効果)。ハイライト:最初の試みとしては「一日の終わりに完了した項目を10分で数え、未完了は翌日に最大3つだけ持ち越す」など、可視化のルールを限定することが効果的に働く場合がある。
出典:Psychology Today — Zeigarnik effect

仕事を早く終わらせるほど依頼が増えるのは普通?

早く応答・処理する人に業務が集中するのは観察される現象で、組織や外部からの期待が「速さ」を評価軸に置くと短期的な仕事流入が増える。営業や顧客対応では反応速度が機会獲得に直結するという分析もあり、その文化が内部業務にも波及することがある。ハイライト:判断軸としては「この依頼が頻繁に戻ってくるか」と「代替可能か」を照らし合わせることで、受けるべきかを現実的に分けやすくなる。
出典:Forbes — Why Email Response Time Matters

タスク管理ツールを入れたのに楽にならないのはなぜ?

ツールは入口を整理する意図で導入されるが、運用ルールが不十分だと通知や依頼の入口が増えて断片化を助長することがある。また、ツール間で情報が重複すると確認作業や同期作業が増える。ハイライト:運用のチェック項目として「各チャネルの目的」「期待応答時間」「誰が最終責任を持つか」の三点が明確かどうかを見ると、ツール導入の弊害か運用の欠如かを切り分けやすい。
出典:Microsoft Work Trend Index(Microsoft)

このQ&Aは、現場ごとの事情を分類するための観察枠を提供するにとどめ、次は増え方をどう測り、どの手当てが効果を持つかを検討する視点へとつながります。

著者:とまつ@ビジネス浪人

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