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なぜ仕事のゴールは曖昧になりがちなのか

結論を簡潔に言うと、仕事のゴールが曖昧になるのは「個人の怠慢」ではなく、仕事そのものの構造、評価・インセンティブ設計、そして上位と現場をつなぐコミュニケーションの翻訳が追いついていないためだと整理できます。

  • ゴールの曖昧さを「成果物/到達判定/優先順位/責任範囲」に分解する視点を示します。
  • 評価制度や報酬・インセンティブが曖昧さを温存する仕組みの見取り図を扱います(構造的な原因の把握)。
  • 曖昧な指示を「測定可能な評価軸やKPI、あるいは代替的な定性的指標」に変換する段階的テンプレと具体例を提示します。
  • マネジャーとメンバーが現場で使える短い対話スクリプトと合意形成の手順を用意します(実務で落とし込める形で)。
  • 部門横断や利害対立の場面での優先順位付け・交渉の扱い方と、簡易なBefore/After事例での整理を行います。
全体俯瞰マップ
全体俯瞰マップ
  • ゴール曖昧の主因一覧
  • 構造・評価・翻訳の関係図
  • 記事内の主要観点の配置

「ゴールが曖昧なまま進む」違和感はどこから来るのか

曖昧さの切り分け
曖昧さの切り分け
  • ゴールと到達条件の違い
  • 出力/品質/期限の3軸
  • よくあるズレの典型例

ここが曖昧なままだと、判断を誤りやすくなります。

曖昧なのは「ゴール」か「到達条件」か

仕事の言葉が抽象的に聞こえるとき、実際には二つの問題が混ざっていることが多い。一つは「なにを達成するか(ゴール)」が抽象的であること、もう一つは「いつ・どの程度で合格とするか(到達条件)」が定まっていないことです。これらは見た目が似ているため混同されやすく、会話の解像度を上げないまま作業が始まると合意が形成されません。判断基準の軸は「出力(何を出すか)」「品質(どの水準か)」「期限(いつまでか)」の3点で分けて考えるとズレが見えやすくなります。

仕事が進んでいるのに、前に進んだ気がしない理由

作業時間やタスク消化が増えても達成感が薄いのは、進捗の測り方と評価の粒度にズレがあるためです。例えば間接業務やサポート業務はアウトプットが「状態改善」「摩擦の減少」といった形になり、従来の成果物ベースの評価では可視化されにくい傾向があります。そうした仕事は「何が良くなったか」を示す代替指標(リードタイム、手戻り回数、問い合わせ数の減少など)に落とすことが、一歩目の可視化になります。出典:AI経営総合研究所

「言われた通りやったのに…」が起きやすい場面

指示通りやったのに評価と噛み合わないのは、発話者(言った側)が前提や期待を暗黙にしている場合に起きます。上司が示す「良い状態」は業務経験や評価観点によって異なり、メンバー側はその前提を汲まずに行動してしまう。よくある失敗は、KPIや成果物を先に決めずに「とりあえず進めて」と言われることです。回避策としては、短い問い(例:「最終的に誰が満足すれば合格か」「迷ったらどちらを優先するか」)で期待の輪郭を一度言語化して保存することが有効です。 出典:Be&Do(目標設定の論点)

これらの認識を整理すると、曖昧さは単に言葉の問題ではなく「可視化の欠如」「前提の非共有」「評価軸のミスマッチ」といった構造的な要素が混じっていることが見えてきます。次は、そうした構造がどのようにして組織の期待や見積もりと絡み合うかを観察します。

出典(計画錯誤などの傾向を示す参考):マイナビ キャリアリサーチLab

なぜこの問いが生まれやすいのか(仕事側の性質)

仕事の性質を少し分解すると、この問いが自然に生まれる理由が見えてきます。

成果が「物」ではなく「状態」になりやすい(間接業務・支援業務)

直接売上や納品といった明確な「物」ではなく、組織の状態(摩擦の減少、意思決定の速度、顧客満足の持続性)を改善する仕事は、成果の定義が曖昧になりやすいです。こうした仕事は「何を出すか」ではなく「何が変わるか」を示す指標が必要で、例えばリードタイムの短縮、手戻り件数の減少、問い合わせ応答時間の改善といった代替指標に落とし込むと可視化しやすくなります。 出典:AI経営総合研究所

ハイライト:まずは一つの代替指標(例:リードタイム)を決めて、現状値と短期目標を共有することが実務の一手です。

依存関係が多いほど、ゴールは合意ではなく「空気」になる

複数部署・外部ステークホルダーとの依存関係が深い仕事は、条件変更や期待のズレが頻発し、最初に決めたゴールが暗黙の前提に埋もれがちです。所有者(オーナー)が不明確だと調整コストが増え、合意は口頭や“空気”で留まるため、後から評価齟齬が生じます。回避のためには、決裁者・チェックポイント・期限を短い文で記録し、関係者が参照できるようにすることが有効です。 出典:Human Structure(境界の曖昧さに関する考察)

ハイライト:合意を文書化するときは「誰が最終判断するか」を明記することが最も重要なチェック項目です。

不確実性が高い仕事は、最初から決め切れない前提を含む

探索や企画、技術的に未確定な開発などは、途中での学びにより目標自体が更新されることが前提になります。見積もりの楽観化(計画錯誤)が起きやすく、当初の到達条件が現実に合わなくなるため、ゴールが曖昧化する傾向があります。こうした場合は、成果の固定ではなく「更新ルール(いつ・誰が・どの基準で見直すか)」を最初に合意しておくとズレが減ります。 出典:マイナビ キャリアリサーチLab

ハイライト:見積もりには「楽観バイアス」を織り込んだバッファを設け、レビュータイミングを明文化することが実務上の有効な一手です。

こうした仕事側の性質を踏まえると、曖昧さは単なる言葉不足ではなく、可視化・所有・更新ルールの欠如が交差した構造的問題であることが見えてきます。次の観点では、よく語られる説明がどこまで有効でどこが足りないかを整理します。

よくある説明をいったん整理する(ただし万能ではない)

現場で繰り返し参照される説明は、実務を整理するうえで役立つ一方で、特定の状況では十分でないことが散見されます。

「SMARTにすればいい」:有効な場面と、はまりにくい場面

SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)は目標を具体化するための有用な枠組みで、定型的・反復的な業務では効果を発揮しやすいです。一方で、探索的な仕事や「状態改善」を主目的とする業務では、無理に全要素を当てはめると視野狭窄を起こし、本来の価値を測れなくなる傾向があります。判断基準の一つとして、業務が「予見可能で再現可能」ならSMARTを優先し、そうでなければ更新ルールを先に決めると整理しやすいです。

出典:Be&Do(目標設定の論点)

「KPIに落とす」:測定できるものが先に来てしまう問題

KPIへ落とす発想は可視化と評価を容易にしますが、測定可能性が優先されると、意味の薄い代理指標が目標化されるリスクがあります(いわゆる指標の盲目的追求)。よくある失敗は「簡単に測れる数値」を採用した結果、本来の目的が置き去りになることです。回避策としては、選んだKPIが目的のどの側面をどの程度説明するかを短い注釈で残すことが有効です。

出典:HackCamp(曖昧な目標に関する考察)

「優先順位をつける」:優先の基準そのものが曖昧なケース

優先順位づけは意思決定の要ですが、何を優先するかの基準が共有されていないと、優先付け自体が混乱を招きます。評価への影響、顧客へのインパクト、リスク・コストという三つの軸を単純に並べて比較するだけでも合意は取りやすくなります。実務的な一手として、優先決定の際には「誰が決裁し、どの評価軸で測るか」を短文で残すことが重要です。

出典:HRBrain(評価と目標のズレに関する記事)

こうした一般論の効用と限界を確かめることで、表面的な説明だけでは拾えない構造的なズレが見えてきます。

それでも違和感が残る理由(曖昧さは“誰の都合”で残るのか)

一般論で原因を並べても、現場での違和感が消えないのは、曖昧さが「誰かの都合」によって温存されている側面があるためです。

評価制度とインセンティブが「曖昧を保持する」力学を作る

評価や報酬が曖昧だと、組織は説明可能性や裁量を残すためにあえて基準を明確にしないことがあります。実務上は「評価者間のばらつき」「評価基準の不明瞭さ」「目標設定の曖昧さ」を課題に挙げる企業が多く、運用段階で曖昧さが恒常化する傾向が報告されています。判断基準のチェック項目として、評価の透明性(基準の明文化・評価者間の整合)をまず確認することが実務的な一手です。

出典:あしたのチーム(人事評価運用の課題調査)

管理職が「翻訳役」を十分に果たせない組織的理由

中間管理職は戦略と現場を橋渡しする役割を担うとされますが、情報や権限の欠如、ガバナンス設計の不備があると翻訳が滞り、ゴールが曖昧なまま流通します。研究ではミドルマネジャーが戦略を具体的な業務に落とし込む「バイリンガル的役割」を果たすことが期待される一方、支援や権限が不足するとその機能が弱まると指摘されています。実務的には、翻訳の“責任と手段”(誰が落とすか/どんな情報を使うか)を明示することが有効です。

出典:PMC(中間管理職の役割に関する研究)

認知バイアス(計画錯誤等)が見積もりと期待をずらす

人は自身の作業時間やリスクを過度に楽観視する傾向があり、これが目標設定や到達条件の曖昧化につながることが知られています。計画錯誤は個人だけでなく組織の見積もり慣行にも現れ、過去実績を参照しない「内側の視点」だけの計画が失敗を招きやすいという示唆があります。簡便な対処としては、過去類似事例の「外側の視点」を参照して見積もりにバッファを入れることです。

出典:The Washington Post(計画錯誤に関する解説)

以上を踏まえると、曖昧さは単なる表現上の問題ではなく、評価制度の設計、翻訳役の機能、そして認知上の癖が絡み合って残る構造的な現象に思えます。

曖昧さを分解して扱う:ゴールを「翻訳」するための観点

ゴール翻訳テンプレ
ゴール翻訳テンプレ
  • 目的→成果物→判定基準→制約→優先
  • 短い対話スクリプト例(3問)
  • 代替指標候補(リードタイム等)

曖昧さを放置しないためには、言葉をそのまま受け取らず、扱える単位に翻訳する作業が必要になります。

曖昧→具体の変換テンプレ:目的/成果物/判定基準/制約/優先順位

ゴールを扱える形にするには、5つの要素を順に埋めていくと実務的です。「何のために(目的)」「何を出すか(成果物)」「どの水準なら合格か(判定基準)」「守るべき制約」「他と比べての優先順位」。この順序で文にすると、合意のズレが可視化されやすくなります。実務の一手としては、まず「判定基準を一つ決める」ことが最も効果的です(量と品質のどちらを優先するかを明示するだけでも判断がぶれにくくなる)。

出典:Be&Do(目標設定の論点)

マネジャー×メンバーの対話スクリプト:合意を短い文に落とす

合意は口頭だけだと消えやすいため、短い問いで期待を言語化して記録する習慣が有効です。実例として三つの問いを推奨します。「誰の評価で合格とするか」「迷ったら何を優先するか」「判断が困ったら誰に確認するか」。よくある失敗は詳細を求め過ぎて会話が終わらないことなので、まずはこの三問を5分で回すことを優先すると実務上の摩擦が減ります。

出典:HRBrain(評価と目標のズレ)

間接業務の代替指標:量より「摩擦」と「時間」を測る

間接業務や支援業務は成果が状態として現れるため、代替指標が役に立ちます。候補はリードタイム、手戻り回数、問い合わせ件数、合意形成に要する意思決定の回数などです。これらは「何が良くなったか」を示す代理変数になり得ます。チェック項目として、選んだ指標が現場の行動を変えるかどうかを1か月で検証することが実務的です。

出典:ミキワメラボ(仕事の可視化とフロー整理)

こうした翻訳的な手法は、表層の言葉を超えて合意を残すための道具になります。

暫定的な整理:ゴールが曖昧なのは“怠慢”ではなく、設計課題かもしれない

暫定整理チャート
暫定整理チャート
  • 曖昧さの5分類(成果物等)
  • 更新ルール(誰・いつ・基準)の枠組み
  • 今すぐ試せる最小の一手(確認一文)

観察を並べると、曖昧さは個人の不足よりも、合意や制度の設計が十分でないことに起因する場面が多いように見えます。

曖昧さには種類がある(成果物・判定基準・優先順位・責任・期限)

同じ「曖昧」でも、問題の所在は異なります。例えば「何を出すか」が不明確なら成果物の切り分けが必要ですし、「どの水準で合格か」が決まっていなければ到達条件の定義が欠けています。優先順位や責任、期限の曖昧さは意思決定の遅延や責任回避を生みやすく、それぞれに対応する手当てが変わります。実務的な判断基準として、どの要素が欠けているかを一問一答で確認する(例:「これが出たら誰が満足するか?」)ことが手早い切り分けになります。

出典:AI経営総合研究所

最初から完璧なゴールより、更新可能な合意を残すほうが現実的な場面もある

不確実性の高い仕事では、初期にすべてを決め切ること自体が非現実的になる場合があります。その場合に有効なのは「更新ルール」を先に合意する方法です。具体的には「いつ」「誰が」「どの基準で見直すか」を明示し、レビューのタイミングと判断材料を最初に共有しておくと、途中で目標が動いても合意の跡が残ります。行動としては、見積もりに楽観バイアスを織り込んだバッファと、固定のレビュー日をセットすることが簡潔で効果的です。

出典:マイナビ キャリアリサーチLab

よくある質問:曖昧な指示にどう返す?/KPIが作れない仕事は?

曖昧な指示に対する実務的な反応はシンプルで、最小限の確認と記録を残すことです。たとえば、口頭で「とりあえず進めて」と言われたら「今回のゴールはXで、判定はY、迷ったらZさんに確認で合っていますか?」と短く返し、メールやチャットに一文で残す。KPIが作れない仕事は代替指標(リードタイム、手戻り回数、合意に要する会議回数など)を用いて「行動の変化」を測る方向で暫定評価を設けると実務は回りやすくなります。まず取るべき一手は、確認の一文を残すことです—これだけで後の評価齟齬が大きく減ります。

出典:HRBrain

こうした暫定整理は、曖昧さを個人の問題と見なす代わりに、設計上の穴を見つけるための観察枠を与えてくれます。

Q&A

Q1: なぜ仕事のゴールはそもそも曖昧になりやすいですか?
結論:ゴールの曖昧さは、業務の性質(間接性・依存関係・不確実性)と、組織内の評価・合意形成の仕組みが一致していないことが原因として多く見られます。 補足:直接的な成果が出にくい支援業務や部門横断の仕事は「何が良くなったか」を測りにくく、結果として言葉や期待が抽象化されやすい傾向があります。出典:AI経営総合研究所
Q2: 組織のインセンティブや評価制度はどう関係しますか?
結論:評価や報酬の設計が不明瞭だと、曖昧さが温存されやすくなります。 補足:評価者の裁量が大きく基準が明文化されていない場合、合意形成よりも裁量運用が優先され、結果として目標設定や基準が曖昧なまま運用される傾向が報告されています(評価運用の課題として企業でも指摘される点です)。出典:HRBrain
Q3: 曖昧なゴールを具体的な評価軸やKPIに変える実務テンプレはありますか?
結論:短いフレームで「目的→成果物→判定基準→制約→優先順位」を順に埋めると実務で使いやすいテンプレになります。 補足:この順で記述すると合意のズレが可視化され、まず一つの判定基準(例:品質or速度)を決めて共有することで判断がぶれにくくなります。テンプレ自体は簡潔にし、後で更新可能にしておくのが現場では現実的です。出典:Be&Do(目標設定の論点)
Q4: マネジャーとメンバーが現場で使える短い対話スクリプトは?
結論:「誰が最終判断するか」「迷ったときの優先基準は何か」「合格を誰が評価するか」を短く確認して記録するだけで齟齬はかなり減ります。 補足:具体的には会話の終わりに3行で書く習慣(例:「合格基準:X/優先:時間>品質/確認先:Y」)が実務で使いやすく、議事録やチャットに残すことで後の評価や見直しが容易になります。出典:HackCamp(曖昧な目標への対応)
Q5: 間接業務や管理業務の評価指標はどう作ればよいですか?
結論:直接的な成果(量)ではなく、「摩擦の減少」「時間短縮」「再現性」といった代替指標で評価するのが実務的です。 補足:たとえばリードタイム、手戻り回数、問い合わせ件数、合意形成に要する意思決定回数などを短期的にモニタリングし、指標が行動を変えるかどうかを試験的に検証するとよいでしょう。出典:ミキワメラボ(仕事の可視化)
Q6: 部門横断や利害対立がある場面で優先順位をどう決めればよいですか?
結論:優先順位は「交渉の結果」として扱い、決裁者・評価軸・トレードオフを明示して合意を残すことが現実的です。 補足:意見対立がある場合は、各選択肢のインパクト(顧客/コスト/リスク)を並べ、誰が最終決定を下すかを短い合意文で固定することで、後の責任やリソース配分が明らかになります。出典:Human Structure(境界の曖昧さの分析)
Q7: 見積もりの甘さ(計画錯誤)はゴールの曖昧化にどう影響しますか?
結論:過度な楽観は到達条件やスケジュールの再設定を招き、結果として目標そのものが揺らぎやすくなります。 補足:見積もりを作る際に過去の類似事例(外側の視点)を参照してバッファを入れる習慣が、ゴールの頻繁な書き換えを減らす手立てとして有用だという示唆があります。出典:マイナビ キャリアリサーチLab(計画錯誤の傾向)
Q8: 曖昧さを解消した事例やBefore/Afterのデータはありますか?
結論:公開されている実務事例は断片的ですが、合意の可視化と代替指標の導入で評価の整合性が改善した事例が報告されています。 補足:たとえば評価基準を明文化し、定期レビューと代替KPIの導入で成果の議論が定量・定性で行えるようになったという企業事例があり、運用面の変化(議事録・KPIの定着)が重要とされます。出典:あしたの人事オンライン(評価と目標の運用事例)
Q9: すぐに試せる「最小の一手」は何ですか?
結論:口頭の指示を受けたら一文で確認して残すことです(合格基準・決裁者・優先の3点が望ましい)。 補足:形式はシンプルでよく、チャットや短いメールに「今回のゴール=X、合格基準=Y、決裁者=Z」で残すだけで、後の齟齬や評価の迷走を抑えやすくなります。出典:AI経営総合研究所(可視化の重要性)
著者:とまつ@ビジネス浪人

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